Fair Trade in Zushi

フェアトレードの話

2. フェアじゃないトレードって何だ?

1. バングラデシュビル倒壊事件の意味

事故現場写真を見た時の衝撃は忘れられません。

2013年4月24日、バングラデシュ・ダッカ近郊シャバールの8階建て商業ビル「ラナ・プラザ」崩落事故は、死者1127人、負傷者2500人以上を出した大惨事となりました。

バングラデシュ内務省の主任調査官によれば、「ビルの上層部に違法に設置されていた4基の大型発電機などの振動が崩落を誘発し、5分も経たないうちに」あっというまにくずれ落ちたそうです(AFPBB News 2013.5.4)。

バングラデシュ史上最悪の産業事故。死傷者とその遺族の方々の悲劇を思うと心が痛みますが、事故の背景や経緯が詳しく伝えられるにつれ、遠く離れた日本に住む私たちもけして無関係ではないことが浮き彫りになってきました。

倒壊したビルには多くの縫製工場が入居していましたが、発注していたのは世界的に名を知られた大手アパレル会社。日本のメーカーも含まれています。

おそらく、たいていの人はこれらのメーカーのものを持っていると思います。シンプルなデザインで使い勝手がよく、カラー・バリエーションも豊富なので、複数枚買ってしまう人も多いのではないでしょうか。飽きて着なくなってもリサイクルに出せばいいし、くたびれてきたらウェスにしたって構わない。価格がお手軽だから、気軽に「ファッション」が楽しめます。

わたしたちがたくさん買えば買うほど、作った人に多く還元される。もし、そういう仕組みになっていたらいいんですけど。消費者もハッピー。生産者もハッピー。

でも、実際は、そうではないらしい。

グローバル企業は、低価格競争に生き残るため安い労働力を求め、バングラデシュをはじめいわゆる開発途上国 注1 に進出しています。現地では、ほかに現金収入の道を持たない人々が、賃金労働者として雇われる。健康や時には命さえも損なう劣悪な条件であっても。きょう食べるものを買うお金がないのだから、ノーといえない。

そんな労働者にはなりたくない。誰だってそうだと思います。

消費者はハッピーなのに、生産者はアンハッピー。
フェアじゃないとは、このことだったのですね。

このラナ・プラザの倒壊事故の報道で、(うすうすは知っていたかもしれない)そのアンフェアな状況が公に示されたのではないでしょうか。「まえがき」で引用した、フェアトレードの定義「立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す『貿易のしくみ』 」の「立場の弱い開発途上国の生産者や労働者」の現状が具体的に見えたのだと思います。

ザ・トゥルー・コスト
『ザ・トゥルー・コスト』
シネマ・アミーゴ
シネマ・アミーゴ
逗子での上映は「シネマ・アミーゴ」046-873-5643 

アメリカでは、この事故がきっかけとなって『ザ・トゥルー・コスト』 注2 というドキュメンタリー映画が製作されました。サブタイトルは、「ファストファッション 真の代償」。「ファストファッション」というのは、「ファストフード」の「ファスト」と同じ。大量生産し大量消費を意味するファッションだそうです。映画では、華やかなファッション業界の陰で、それを維持するためにさまざまな代償を払わされている労働者たちの現実と生の声を丹念に拾っていました。

過重な低賃金労働。

賃上げに声を上げた従業員への暴力。

皮革工場の廃液などによる健康被害。

そして、ショップオープンの当日に店の前に列まで作って買いあさる先進国の「ファッショナブル」な人たち(わたしたち)。

新聞報道以上に、状況が鮮明に伝わるのではないかと思います。身につまされもしました。

かわいそう…..。
しかし、アンフェアな状況を強いられいる人々に必要なのは、同情ではなく、解決方法を。

フェアトレードの定義でいう「開発途上国の生産者と労働者の生活改善と自立を目指す」とは、この悲惨な事実を変えていくべく、冷静で客観的な方法を試みていくという宣言だったのだと感じました。

さまざまなニュースや情報を得ることができるようになった現在、私たちは、開発途上国のアンフェアな状況も知ることができるようになりました。大量生産・大量消費のファストファッションのサイクルを維持しているのは、その状況を作り出しているのは、わたしたち自身だということも突きつけられました。であるなら、今後は、自分の消費行動を見直すことから始めなければならないのだと思います。

何かを購入する際、「フェアであること」も選択の基準の一つにしなければならない時代が来ているのだと思います。

注1:開発途上国
開発途上国
<developing country>発展・開発の途上にあって、現在は一人当たりの実質所得が低く、産業構造では一次産品の比率が低い国。発展途上国(『大辞泉』)。
具体的には、開発援助委員会DACの援助対象となっているアジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの諸国。かつては、後進国(<backyard country>)と称したが、適切でないとして、国連でも使用が停止された(『ブリタニカ国際大百科事典』)。

開発途上国<developing country>、すなわち開発が進行形の国の反意語は、<developed country>で、開発された国だが、日本語には<developed country>の意を汲んだ訳語がないのだろうか。いまだに、ちょっとえらそうなニュアンスのこもる「先進国」が、反意語。

開発済国???

注2:映画『ザ・トゥルー・コスト』

2015年 アメリカ映画 93分

監督:アンドリュー・モーガン 
出演:サフィア・ミニー(ピープル・ツリー代表)、ヴァンダナ・シヴァ(環境活動家)ほか

各界からの声:
「安くすぐ捨てられる服が与える甚大な影響がショッキングで不安になる」(ELLE)
「私たちは服を買いすぎて生産者への支払いが少なすぎる」(CNN)

2. チョコレートやコーヒー好き必読…現代の「女工哀史」と児童労働

Susan Rees: A PIT GIRL
「Susan Rees: A PIT GIRL」(John Evans文 Chris Rotehro絵 1996)

「Susan Rees: A PIT GIRL」(John Evans文 Chris Rotehro絵 1996)という絵本に出会いました。

PIT(ピット)とは「穴」。オーケストラ・ピットやサーキット・ピットなどは日本語でも聞きますが、この絵本でいうPITは、「石炭の坑道」を指しています。

絵本『スーザン・リース ピットガール』は、石炭の坑道で働く6歳の少女スーザンの物語です。

「火曜、今日も5時に起きて6時から炭坑で仕事。ネズミがパンとチーズを食べちゃったのでおなかがすいたわ」(S.K.さん訳)

いわゆる先進国である英国も貧しかった時代には(『ピットガール』の時代設定は1842年。日本で言えば江戸時代の終わり)、広く児童労働 注1 が行われていました。この絵本は、英国ウェールズ歴史シリーズの一冊。児童労働という負の歴史を現代の子供たちに伝える教育的な意味を持った絵本なのですね。

一方日本史で児童労働という用語から思い浮かぶのは、まず『女工哀史』注2 でしょうか。明治維新後、殖産興業の中核となった繊維産業を担い(担わされ)、劣悪な労働環境、過酷な労働条件で酷使された女工たちの多くは貧農出身の子女だったそうです。

共通するのは、「貧困」。

貧困が、児童労働を生む背景にあるということです。

そして、現在、世界人口約72億人の80パーセントが貧困層であるといわれています。すなわち……

5,760,000,000(57.6億)人

80パーセントという高い割合も、この数も、衝撃です。

が、児童労働なんて、昔の話じゃないんですか? 少なくとも、自分の周りには、学校に行かないで働いている子どもっていないと思うけど?

そこで、事実を確認するために、またしても数字を引きます。

168,000,000人(1億6800万人)

児童労働を強いられている児童(5~17歳)の総数だそうです(「ストップ!児童労働キャンペーン 2017」のチラシ。ILOデータ)。

9人に1人。

世界中で、日本人口よりも多い子供が働いており、しかも、「85000000人(8500万人)が、建設現場、性産業、農薬がまかれた農場など、危険で有害な場での労働を強いられている」のだとか。紛争国の、少年兵もしかり。

世界の児童労働の状況は深刻です。しかし、児童労働が世界的な社会問題として注目され、取り上げられるようになったのは、そんなに古い話ではありません。

2000年、英国で、チョコレートなどの原料となるカカオ農園における児童労働をテーマとしたドキュメンタリーが放映され、ついで翌年、米ナイト・リダーが、コートジボアールのカカオ農園で働く子供たちをリポートします。ここから、深刻な児童労働問題が世界に周知されはじめ、国際社会はその対策に乗り出すことになりました、遅ればせながらではあっても。

認定NPO法人ACE(エース)の「おいしいチョコレートの真実」というDVD 注3 を見ました。

いちばんの衝撃は、カカオ豆を収穫し重そうに運んでいく子供たちの多くが、製品となったおいしいチョコレートを食べたことがないということでした。へんじゃないですか。

日本では、年間28万トン以上のチョコレートを消費しています(世界第6位)。

一方、カカオの生産地では、チョコレートを食べたことすらない子供たちが、学校へ行けず、過酷な労働を強いられている。わたしたちは、「わたし、たべるひと」。「たべるだけのひと」。ふと、「甘い汁を吸う」という言葉が、頭をよぎっていく…。

もうひとつのアンフェアな現実です。

チョコレートやコーヒーとなるカカオ生産地だけではなく、コットンの生産地などでもおなじような問題が起こっています(コットンの生産が世界一のインドでは、48万人を超える子供たちが安い労働力として酷使されている)。コットンの場合は、多量の農薬が使われるため、過酷な労働に加え、深刻な健康被害も加わっています。

児童労働ははびこっているようです。でも、なぜ、児童なんだろう…。

グローバル化が進み、企業は、より安い労働力を求めて開発途上国へと進出していく。ここでも、前項で見たのと同じ構図です。そして、開発途上国に進出した企業の労働者狩りは、さらに賃金を安く抑えられる子供たちへとすすんでいく。子供自身も、生活が立ちゆかないのだから、自分が働くのが当たり前だと受け入れてしまっているしまう場合もあるそうです。

「子どもたちは、低賃金で雇うことができ、いつでも切り捨てることができる使い勝手のいい労働力として世界経済の中に組み込まれているのです」(『わたし、8歳、カカオ畑で働きつづけて。』第3章61頁)

また、児童労働がいちばん多いのは、農業です。それは、なぜか。

多くの途上国の主要産業は農業ですが、先進国が自国産の農産物を途上国に投げ売りなどで途上国の農業経営は立ち行かなくなり、雇われて働くしか生きるすべはなくなった。そして、雇用者はより安い労働力として児童に目をつける、ということなのですね。

ここでも先進国(わたしたち)が、途上国のアンフェアを作り出している、そして、それを知らないまま今まできてしまったということではないでしょうか。

国際フェアトレードラベル機構の「国際フェアトレード認証基準」では、「児童労働・教師労働の禁止」を、また、WFTOの「フェアトレードの10の指針」でも、「5 児童労働および強制労働を排除する」と明記されています。

(ちなみに、持続可能な開発目標(SDGs)注4 では、2025年までにすべての形態の児童労働をなくす」と明記)

フェアトレードは、アンフェア(過ぎる)児童労働を廃絶するためのよりどころになっているのです。

注1:児童労働
18歳未満の子供に対して法律で禁止されている危険有害な労働と原則15歳未満の子供の義務教育を妨げる労働。家事手伝いのような労働をいうのではない。大人の収入だけでは生活できず、子供の収入があてにされている状況も起こっている。

注2:『女工哀史』(じょこうあいし)
細井和喜蔵著 大正14(1925)年 改造社刊。著者が、14歳ころから15年間、紡績工場の下級職工として働いた経験と見聞に基づき、悲惨な女工(女子労働者)の姿を人道主義的な視点から描いたルポルタージュ。過酷な労働条件、自由を拘束される寄宿舎生活など。深夜業廃止および1920年代後半の紡織労働運動発展の元となった。女工は、通常、13~4歳で小学校を卒業すると7~8年の年季奉公をした。

注3:「おいしいチョコレートの真実」
ACEのワークショップ教材の一。ガーナのカカオ生産の実態を観ることで、カカオ生産地の子供たちの環境や貧富の格差などを学ぶことができる。

http://acejapan.org/childlabour/materials

ACEは、児童労働の撤廃と予防を目標に掲げ、直接支援、政府への提言、企業との協働、市民の啓発と参加機会の提供を行うNGO。「児童労働に反対するグローバルマーチ」(カイラシュ・サティヤルティさん提唱。世界103カ国で実施)を日本で実施するために、1997年に学生5人が設立。「Action against Child Exploitation(意味:子どもの搾取に反対する行動)」の略。
「しあわせへのチョコレートプロジェクト」「コットンのやさしい気持ちプロジェクト」など、児童労働撤廃のためのプロジェクトを実施している。

注4:持続可能な開発目標
…..
児童労働を考える絵本『そのこ』より
  詩:谷川俊太郎 絵:塚本やすし 

児童労働を考える絵本『そのこ』
その子』(中保佐和子による英訳もついている。晶文社 2011年刊)

「そのこはとおくにいる
……….
でもぼくはしっている
ぼくがともだちとあそんでいるとき
そのこがひとりではたらいているのを
……….」
 

参考にした本

『わたし、8歳、カカオ畑で働きつづけて。』
わたし、8歳、カカオ畑で働きつづけて。』(著岩附由香・白木朋子・水寄僚子 合同出版 2007年刊)
『子どもたちにしあわせを運ぶチョコレート。--世界から児童労働をなくす方法』
子どもたちにしあわせを運ぶチョコレート。–世界から児童労働をなくす方法』(著白木朋子 合同出版 2015年刊)